陣痛で苦しむ私を見かねたのか、少し早めに麻酔の処置をしてくれることになりました。入院時にもらったお産セットの中に入っていた病院着に着替えて、診察室へ向かいます。まずは先生に子宮の状態を見てもらいました。
先生「あ。診察時は子宮口が1.5cmしか開いてなかったのですが、今は3〜4cm開いてますよ」
私「そうですか!」
あの診察からまだ1時間くらいしか経ってないのに、ちょっと目を放した隙に(?)倍以上開いてました。進むときは、こんなに早く進むものなんですね。
陣痛室で麻酔の処置が始まると、もう病室には戻れないそうです。そこで「いったん部屋に戻り、必要なものをまとめて持ってくるように」とのこと。安産のお守り、ハンカチ、カメラの入った小さめのポーチと、ビデオカメラを持って、陣痛室へ向かいました。
麻酔後は飲食できないので、ミネラルウォーターのペットボトルやカロリーメイトなんかは部屋に置いておきました。(水分は点滴で摂るのでOK)
麻酔開始
いよいよ麻酔の処置です。処置をしている間は夫は陣痛室に入れないので、いったん外に出てくださいとのこと。無痛分娩で使われているのは硬膜外麻酔というものです。硬膜外腔(脊髄の外側)に細いチューブを入れて、そこから麻酔薬を流す方法です。
「本当は子宮口が5cmぐらい開いてから処置をするけれど、陣痛が辛そうだから早めに麻酔を入れます。この時間だと陣痛促進剤を使えないので、もしかしたらお産が明日までかかるかもしれません」と助産師さん。
「翌日に持ち越しになった場合、2日目の無痛分娩の管理料として追加で4万円かかりますがよろしいですか?」
私の頭の中で、小島よしおが踊ります。
(♪そんなの関係ねー そんなの関係ねー♪)
お金かかってもいい! とにかく早く楽になりたい!
「かまいませんっ」
「では麻酔の処置を始めます。左を下にして横になって、背中を丸めてください。体育座りするときみたいに、両腕でしっかり膝を抱え込んでください。背中に麻酔を打っているときは絶対に動かないでくださいね……」
出産で一番きつかったことは何ですかと聞かれたら、私は迷わず「麻酔を打ったとき」と答えます。麻酔の注射が痛かったのではありません。麻酔中、絶対に動いてはいけないのが辛かったんです。
動いてはいけないのがなぜ辛いかというと、その姿勢でじっとしているときも、陣痛がくるかもしれないからです。激しい痛みが襲ってきて体が自然と反ったりするのに、それを意志の力で押さえこまないといけません。
動いたりして針がずれたら大変なことになるので、ひたすら我慢するしかありません。お願いだから陣痛来ないでと思いながら、終わるのを待ちます。
助産師「はい、動かないで…」
背中でいろいろ処置している気配がします。
私「はい、う、ううう〜!(陣痛きた)」
助産師「ここが大事なところですからね、動かないで」
私「はいいいい〜!」
本当に涙が出ました。一秒が長く長く感じました。この世に、こんなに辛い体育座りがあるのか!と思いました。
「終わりましたよ」と声をかけてもらったときには、放心状態。
仰向けになって、麻酔が効いているかのチェックです。冷たい布を腕にあてられて、「冷たいですか?」と聞かれました。「はい」と答えると、「ではこれは?」と恥骨近くに同じ布をあてられました。「これも、冷たいです」
麻酔が効くまでは15分から一時間くらいかかるそうで、そうしたら冷たさも感じなくなるそうです。
立ち会い出産の夫って
麻酔の処置が終わったので、夫が入室してきました。かっぽう着みたいな白い病院着を、服の上から羽織っていました。その後は夫に付き添ってもらい、二人で出産を乗り越えることになります。夫は手を握っていてくれました。しかし、麻酔をしてからゆうに30分以上経つのに、相変わらず唸っている私。麻酔の効きが悪いようです。痛いと、人間って攻撃的になりますよね。。。ヘビーな陣痛の波が引いて、天井を見つめながら荒い息をついていた時、夫の一言にピキッときちゃいました。
その一言とはこれ。
「赤ちゃんも頑張ってるんだから、お前も頑張れ!」
(頑張れ、って〜? 私が頑張ってるの横で見てるでしょ?!)
私は仰向けになっていた頭をぐりんっと夫の方に動かし、眉間にしわを寄せながら聞きました。
「そう言う夫は何を頑張ってるのっ」
素直に答える夫。
「俺? ……手を握ってる(にっこり)」
プッチーン!
「赤ちゃんも私もこの痛みに耐えて頑張ってると言うのに手を握ってるだけって楽でいいよねううっ!(陣痛きた)」
しばらく耐えていると、陣痛の波が引いていきました。額には脂汗が。
「汗……拭いてほしい……」
「俺、ハンカチ持ってないよ」
「(感情を抑えつつ)ポーチの中にあるから……」
「ポーチ? どこ? ないよ?」
「そこにあるでしょ〜!!」
終始こんな感じで、夫はあまり戦力になりませんでした(笑)
私も尋常じゃない痛みで気が立っていたので、八つ当たりされてかわいそうでした。。。
二度目の麻酔
痛みとの戦いに疲れてきたころ、助産師さんがある決断をしました。「場所を変えて、もう一回麻酔を打ちます」
初産にしてはお産の進みがすごく早いので、別の場所に打ったら麻酔が効くかもしれないとのことでした。もう一度麻酔を打つことについてはリスクもあるから、本当は同じチューブのままの方がいいそうです。でもこれで楽になる可能性があるなら、とやってもらうことになりました。夫はまた退室です。
嬉しい半面、またあの「動かない」苦しみを味わうのかと思うと、心が震えます。おそるおそる、例の体育座りをした私。
「せ、せめて、次の陣痛が来てから……」
「途中でどうせ陣痛が来るから。早いほうが楽になれるから」
ブスッ
「陣痛来るな陣痛来るな陣痛……うう〜!(陣痛きた)」
「動かないよ! 頑張って!」
また涙が出ました。。。
* * *
処置が終わったあと、前回と同じく腕に冷たい布をあてられました。「冷たいですか?」と聞かれ、「冷たいです」と答えます。
次に、「ここはどうですか?」と恥骨付近にあてられたとたん、すごく驚きました。まったく、冷たさを感じなかったんです!
布があてられているな、という感触はあるのですが、冷たくない。つまり、麻酔が効いているということです。
その後陣痛が来ましたが、本当に痛みが1/10ぐらいになりました。部屋に戻ってきた夫もびっくりするぐらい、私が穏やかになっていました(笑)
陣痛が来たことはわかるのですが、余裕で耐えられる感じです。
無痛分娩、万歳! 現代医学、万歳!
ほんと、強くおすすめします。江戸時代に生まれなくてよかった〜。
私は陣痛MAX状態で麻酔を入れたので辛かったですが、計画無痛分娩だと痛みを感じていない時に打つので、私のような体験はしなくて済むはずです。
いよいよ、ご対面
痛みが軽くなって楽になったと思ったら、なんだか陣痛の種類が変わってきて、いきみたくなってきました。ここで内診をしたら、子宮口が全開しているとのこと。お産の準備をしましょう、ということで、一気に周囲が慌ただしくなりました。陣痛中はほぼ助産師さん一人がついていてくれましたが、お産が始まるとたくさんの看護士さんがベッド周りに集まってきて、見守ってくれました。
「1、2の、3でいきんで!」
「旦那さんは、いきむときに頭を持ち上げてあげて!」
いきむというのは、陣痛の助けを得ながら、中の赤ちゃんを外に押しだす動作のことです。まずは陣痛が来るのを待ち、陣痛が来たら、1、2の、3で、息を長くふーっと吐き出しながら、ぐっと力を入れて赤ちゃんを外に押し出すようにします。陣痛が終われば休憩です。まるで、陣痛というビッグウェーブを待っているサーファーみたいだなーと思いました。
「頭が見えてきました! 触ってみますか?」
でもこれは必死に首を振って拒否しました。自分の中から頭が出てきてるなんて怖すぎて、触ったりしたら倒れる……!へたれ妊婦ですみません…!
助産師さんはその後も、「今、頭が巨峰2個分くらい出てきました」「耳より前が出てきました」と励ましてくれます。
そうこうしているうちに、「次で出そうですね」と言われました。「もうすぐ赤ちゃんに会えますよ、頑張りましょう!」
陣痛が来たので、「これで出す!!」と思いながらいきみます。
「ふーーーっ!」
あ、頭が出た、と思った瞬間、ずるずるっと体も出て行くのが分かりました。一瞬後、オギャーという声が聞こえました。
泣き声で、自分が元気であることを、たった今母になったばかりの私に知らせてくれました。助産師さんが、赤ちゃんを私のお腹に乗せてくれました。私が息子にかけた最初の言葉は「こんにちは」でした。
おまけ
カメラやビデオ撮影は、分娩直後から許可されます。夫が張り切って撮影してくれたのですが、写真を後で見てみたら…・誕生直後の写真の背景に、内診台に足をかけたままの私の太もも(大股開き)が写っていた
・赤ちゃんを抱いた私の髪の毛がぐちゃぐちゃ
・私の病院着の胸元が危険な角度ではだけていた
記念に残る写真ですので、皆様はお気をつけください…。